老犬の亡骸を抱く感覚

幸いなことに我が家では近親者があの世に旅立ったことはありません。だから、アーさんは生を受けたものとして、もっとも身近な存在で、はじめて私達がサヨナラをした命でした。

心臓の鼓動が止まってしまい、どんどん体が冷たくなっていくと同時に体が固まってしまうアーさんを目の前に、何を考えるのか、感じるのか、少し想像したことがありましたが、答えは出ませんでした。

実際にその時が来て、生気がなくなってしまったアーさんを見て、まず思ったのは、感謝でした。「いままで、本当にありがとう」と心底思いました。アーさんがいると、家の明るさが増し、嬉しい時は、より嬉しく、辛い時は慰めを与えてくれる、アーさんは、家族全員にとって大きな心の支えでした。

アーさんの呼吸が止まっても、アーさんを撫でると、その毛の感触は変わりません。でも、冷たくなって、固くなった体が、悲しみを呼び起こします。悲しみが襲ってくると、思わず涙が出てきます。

アーさんの体に覆いかぶさるようにして抱きしめると、愛おしさがこみ上げてきます。命がなくなってしまった亡骸でも、その存在は偉大で、神々しく、大好きなアーさんであることには違いありませんでした。

ペットの葬儀場で、最後の抱っこをして、別れの前に、頬にキスしました。旅立つ直前の夜に長い時間抱っこしていたアーさんの暖かさと、最後の体温のなさの対比は、とても印象的な感覚として残っています。どちらもサヨナラをするのに、必要なものだったと思います。

アーさんとの別れに20時間もの時間をかけられたのは、アーさんのお陰。とても幸せなことだったと思います。

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